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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2216号 判決 1956年4月30日

事実

控訴人(小田原瓦斯株式会社)は控訴会社の常務取締高世教三は本件手形の振出前たる昭和二九年五月七日開かれた役員会の決議によつて手形・小切手の振出権限を剥奪され、そしてその旨を控訴会社の各取引先及び金融機関に通知したのであつて、被控訴人は右事実を知つて本件手形を取得したのであるから控訴人はこれら手形につき被控訴人に対し責任はないと述べた。

被控訴人(公信株式会社)は、控訴人主張の高世教三が手形、小切手の振出権限を剥奪された事実及び被控訴人が悪意の取得者なる事実は何れも否認すると述べた。

理由

本件手形の振出当時において訴外高世教三が控訴会社の代表権ある常務取締役であつたことは当時者間に争なきところ、控訴人は本件手形が振出された前の昭和二九年五月七日控訴会社役員会において右高世取締役から手形、小切手の振出の権限を剥奪したのであり、そして被控訴人はこの事実を知つて右手形を取得した旨主張するのであるが、控訴会社役員会において控訴人主張の頃その主張の如き高世取締役の権限の制限の措置をとつたことは認められるけれども、本件にあらわれた一切の証拠によるも被控訴人が右手形の取得当時において右事実を知つていたと認めることはできない。即ち原審における証人松岡豊三は、右の如く高世教三の手形、小切手振出の権限を奪つて後その翌五月八日には電話で又同月一〇日頃には書面で控訴会社の取引銀行や取引先にこのことを通知した旨証言するが、その証言内容を同証人の証言によつて成立を認める乙第六号証の記載内容、日附と対比して検討するとき右の証言はたやすく信用できないのみならず、仮りにこの証言の如く右の頃通知がなされたとしても、その通知先の中に被控訴人が入つていたことは右証言によつては認められず(むしろ入つていなかつたことが窺われる。)してみると右通知の故に直ちに被控訴人が本件手形の取得当時右事実を知つていたとは断じ難く、他にこの事実を確認するに足る資料は存しない。然らば代表取締役高世教三に加えた前記の制限は以て被控訴人に対抗することはできず、控訴会社は被控訴人に対し本件手形についても振出人としての責に任じなければならないことになり、本件控訴は理由がないとして棄却した。

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